宝探しともドキュメンタリとも読める食のエッセイ『旅行者の朝食』

毎回毎回、米原万里の本を読むたびに「名著!」などと囃し立てるのも飽きた。
彼女の著作が素晴らしいのは最早は自明の理。
旅行者の朝食 (文春文庫)

賢哲ソクラテスとは逆の
「生きるために食べるのではなく、食べるために生きる」
と豪語する彼女の食に関わるエッセイ集。

読みゴタエのあるエッセイが二十余り収められているが、その中の一つに『トルコ蜜飴の版図』というのがある。

読みながら溢れる涎を禁じえない。
これでもかと華麗な筆致で料理を語るのがセオリーなのだろうが、そんな平凡な手段を彼女は選ばない。

たかが「飴」についてのエッセイを読んでるはずが、犯人を追い詰めていく推理小説のようなスリル。
究極のお菓子『トルコ蜜飴』を追い求める、一つの冒険活劇ともドキュメンタリとも云える完成度。

飽くなき美食家によるエッセイの白眉ともいうべき一編。
この20ページだけでも500円を払う価値がある。