読書

宝探しともドキュメンタリとも読める食のエッセイ『旅行者の朝食』

毎回毎回、米原万里の本を読むたびに「名著!」などと囃し立てるのも飽きた。 彼女の著作が素晴らしいのは最早は自明の理。 賢哲ソクラテスとは逆の 「生きるために食べるのではなく、食べるために生きる」 と豪語する彼女の食に関わるエッセイ集。 読みゴタ…

もっとも美しい言葉の本『日々の風景』

『日々の風景』を開く。 空が、海が、山が、野が、朝日が、夕日が、月が、緑が、青が、赤が・・・ この日本の全てが輝き始める。 セピア色の世界から1677万色True Colorの世界へと誘われたかのように。 きどったところのない、なにげない一冊。 この国に現れ…

タイムトラベルの古典『夏への扉』

時間移動を表現したSFの古典、らしいが・・・。 昨夏に読んだ『星を継ぐもの』の感動が忘れられずに、時々SFを手に取っている。 仕事、恋人、全てを失い、この時代への未練を無くした主人公。 裏切りから狂った人生を修正すべく、冷凍睡眠を利用し未来へ。 3…

書く技術についての本は多かれど、ノンフィクションの書き方についての好著は稀有『調べる技術・書く技術』

あるテーマを設定し、それについて調べ、人に話を聞き、最後にまとめる技術を紹介するのが、本書のねらいである。 書き始めに7,8割の力を注げと断言する著者。そしてこれが本書の書き始めである。 大学の先生やらエッセイストやらコンサルやらの「書く技…

無駄を描く、無駄を活かす、それが志賀直哉が「小説の天才」たる所以『暗夜行路』

普通、物語には無駄がない。 関係ないと思われた序盤の事件が後半に効いてきたり、ミステリーの謎を解く鍵であったりと精密に組み立てられた論理がある。 ところが、我々が生きる生はどうか。 一年前の出来事と、今の自分との間に明確な因果関係を見出せる人…

宣伝文句通り、二度読まずにはおられない恋愛小説『イニシエーション・ラブ』

「この声。なんか、イメージと違うなぁ・・・」 漫画がアニメ化された時に、 誰しも一度くらいは経験したことがあるはず。 これは無意識のうちにキャラクターに声を与えているから。 おなじ事が小説にも言えるが、小説の場合は声だけじゃない。 主人公の部屋…

人類13000年の鳥瞰図『銃・鉄・病原菌』

世界の歴史といえば西洋史しか思い浮かばない人は自らの浅学とそれに端を置く偏見を恥ずべきだ。 その特効薬として本書ほど面白く刺激的なものはない。 しかし、世界史=西洋史となってしまったことも無理はないのである。 歴史とは常に「勝者により書かれ、…

人間と獣とを隔てるもの、その薄さ『ミノタウロス』

近代以降、思想だとか、なんとか主義こそが時代の本流であって、個々人はその流れに流され溺れ死なぬように必死にもがくノイズのようなものと思っていた。 だから、歴史やら哲学やら経済理論やらを必至こいて勉強していた。 そんな私をさらりと嘲笑してくれ…

一人の老婆に二十世紀の悲劇を見る『オリガ・モリソブナの反語法』

キタ。疑う余地なく、今年一番の大収穫。 米原万里本は何冊も読み、その都度「これぞ最高傑作」と思ってきた。 しかし今回はちがう。 「ゼッタイにゼッタイにこれが最高傑作」 小学生的に言えば「超スーパーウルトラミラクルハイパー、傑作」。 1960年のプラ…

とてつもない衝撃、『夜と霧』

本を閉じ頭を上げ目を瞑る。 まるで本書を読んでいる間一度もまばたきをしなかったかのように、目がじんと熱くなる。 口の中は乾き、その水分は手から汗となっていた。 久しぶりに大きくため息をつく。 息つかせぬほどに本書が面白かったのではない。 読中た…

欲、最大のそして唯一の原動力『虎よ、虎よ!』

公徳心、好奇心、信仰心に自己顕示欲。。。 人をかき立てる動機は様々あるが、 あなたを突き動かしているのはなんだろうか? 本書は復讐心こそを最大の、そして唯一の原動力とした男の物語。 圧巻は男の変化の様。 胸のうちでは一層の復讐心を燃え滾らせなが…

小説のように生き生きした歴史書『フランス革命史』

本を開くといきなり80ページの解説by訳者。 だりーなーと思いながらも読んでみると、どうも様子がおかしい。 解説のクセに妙におもしろい、ワクワクする、早く本編が読みたくなる。 『オィオィオィオィ もしかしてこれ大物じゃねぇの?????』 という期…

「○○戦争」そのネーミングに既に計略あり『英仏百年戦争』

この著者ニクし。 ジャンヌダルクやヘンリー五世といった有名人がいることからもこの戦争を知っている人は少なくない。 が、この戦争の継起がどのようなものかを知っている人は意外に少ない。 英国と仏国の戦いではないのに「英仏百年戦争」などという言葉が…

ロシアの内外を知り尽くした著者によるロシア案内『ロシアは今日も荒れ模様』

「ロシア人=大酒呑み」 この認識は間違ってはいないが正確ではない。 「大酒呑み」などという生易しいものではない。 「情熱的」乃至「熱狂的」とでも言おうか、 兎に角、彼等の“ウォッカ”への情熱は凄まじい。 酒の飲みすぎで仕事が出来ないのなんて序の口…

二十世紀の世界を振り回した巨人『賃労働と資本』

きわめて挑発的。 この挑発にのったのが二十世紀だったんだな・・・身近な問題から出発して、価値決定の法則を明らかに・・・ というのが表向きのキャッチフレーズ、が読めば読むほど資本主義を糾弾しているようにしか聞こえてこないのは、僕自身が「資本家…

優しい保護者の様な顔をした支配者=国家の存在に薄ら寒い想いを抱く。『国家の罠』

史実に勝る物語はない。 国家の罠、「時代のけじめ」として行われた国策調査で職を追われた元外交官の実話。 世の中にある全ての犯罪者を逐一逮捕、起訴していくわけにはいかない。 だからといって捕まえやすそうな事件だけを処理するわけにもいかない。 ど…

米原女史最後にして最高の遺産『打ちのめされるようなすごい本』

本好きのバイブル。 書物という知の大宇宙への唯一無二のガイドブック。 本を読んでみたいんだけど、何から読んだらいいのか・・・ などと嘆く人はとりあえずこれを読むべし。 通訳として世界を飛び回る多忙の傍らで毎日平均七冊の読書、それを基に重ねられ…

最高のエッセイ『魔女の1ダース』

珠玉! うっかり電車の中で読んでて笑いをこらえるのに涙が出た。 エッセイで笑い泣きさせられたのはハジメテ。おすすめの本があると何冊か買って配ったりするが、こいつはすでに三冊も配った。 何がそんなに面白いって喩えとテンポ、そしてスパイスの効いた…

SFというよりもScientific Mystery、即ちSM

究極のメニュー、至高のメニュー いずれにも洩れない最高のSF 中学校で「理科2分野」を学ぶは何の為か? 高校に受かるため? 一般教養? 断じて違う! この本を読むためだったんだと確信する。SFが好きとか嫌いとか関係ない! 理系とか文系とか関係ない!!…