米原女史最後にして最高の遺産『打ちのめされるようなすごい本』

打ちのめされるようなすごい本
本好きのバイブル。
書物という知の大宇宙への唯一無二のガイドブック。

本を読んでみたいんだけど、何から読んだらいいのか・・・
などと嘆く人はとりあえずこれを読むべし。

通訳として世界を飛び回る多忙の傍らで毎日平均七冊の読書、それを基に重ねられた思索の結晶。
それでいて親しみやすい日記形式の文章が、読欲をとめどなくかき立てる。
たとえば、こんな感じだ

「(前略)
最近の「自分探し」ブームについて、「世の中、探したって実現するほどの自分がない人間が大半だ」と身も蓋もないことを直言していて、笑ってしまったが、逆に頭脳明晰、博学多識で途轍もなく視野が広く、感受性鋭く、他者をも己をも突き放して観察できる器量の人間が、波乱万丈の半生と激動の時代をつづったら、これほど面白いものは無いはずである。
というのも、アレクサンドル・ゲルツェンの「自分史」を読み出したら止まらなくなった。『過去と思索』全三巻、各巻六百頁、一三一年前に没したロシア作家の文章を、活字離れが叫ばれ久しいこの国で刊行しようなんて、市場原理に照らしてみたら愚挙以外の何ものでもない。それでも編集者が出版せずにはいられなくなるような力を、作品自体が持っているということだ。・・・・」


本書は単なる書評にとどまらない。
読者を離さぬ良質のエッセイでもあり、
思考⇒出力のための格好のお手本でもある。