優しい保護者の様な顔をした支配者=国家の存在に薄ら寒い想いを抱く。『国家の罠』

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)
史実に勝る物語はない。
国家の罠、「時代のけじめ」として行われた国策調査で職を追われた元外交官の実話。

世の中にある全ての犯罪者を逐一逮捕、起訴していくわけにはいかない。
だからといって捕まえやすそうな事件だけを処理するわけにもいかない。

どのような基準で検察は「事件」にしていくか?

犯罪者といえど日本という国家の中で生きている。
故に、国家が全力で弾劾しようとしたら、何人たりとも逃れられない。
そう、国家の進路と背く者を“選んで”断罪していくのだ。

ある日突然、過剰なまでの駐車違反撤廃政策を打ち出すこともありえないわけではない。

ホリエモン村上ファンドなどの一連の株取引における不正の摘発も「汗水たらして働くことはかっこ悪いことだ」という世論の流れを食い止める為の「時代のけじめ」だったのかもしれない。

国策捜査とは?世論とは?権力とは?正義とは?国益とは?外交とは?愛国心とは?ナショナリズムとの違いは?そもそも国家とは?

あらゆる問いかけを本書は含む。

これらの問に対し、獄中で向き合った512日の結論。
その結論が述べられる被告人最終陳述は『カラマーゾフの兄弟』の魂の弁論を彷彿とさせる。