一人の老婆に二十世紀の悲劇を見る『オリガ・モリソブナの反語法』

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)
キタ。疑う余地なく、今年一番の大収穫。
米原万里本は何冊も読み、その都度「これぞ最高傑作」と思ってきた。
しかし今回はちがう。
「ゼッタイにゼッタイにこれが最高傑作」
小学生的に言えば「超スーパーウルトラミラクルハイパー、傑作」。

1960年のプラハ
物語は老婆オリガ・モリソヴナの賑やかな登場から始まる。
八十歳のようにも見えるのに本人は五十歳と豪語、魔女のように恐ろしげな顔をし、

「他人の掌中にあるチンボコは太く見えるんだよ!」
(隣の芝は青いの意)

「牝豚に跨ってから考える虚勢ブタかね?!」
(後悔先に立たずの意)

などと濁声で罵っている。
しかし、そんな彼女の後ろ姿は完璧な流線型、その踊りはまるで妖精が如き壮麗さ。
まさに顔と声がなければ絶世の美女。

粛清の嵐吹き荒れるスターリン体制下のソビエト、激動を生きぬいた彼女の過去を求め志摩はモスクワへ飛ぶ。

何故、彼女はプラハにいるのか。
何故、彼女はかくも美しく躍るのか。
そして、何故、彼女は一切を反語法をもってアイロニカルに語るのか。

その謎が一つ一つ解けてゆく毎に、彼女の九十年の人生と、世界大戦と冷戦に翻弄された世界の歴史が見えてくる。

ぜひ読んで欲しい、なんてお願いしない。
今すぐ読め!忙しい?
飯食いながらでも、寝ながらでも、エロゲーしながらでも、仕事しながらでも、数学しながらでもいいから読め!
安心しろ、飯と睡眠とゲームと仕事と数学するのすぐ忘れるから。